HOME総合情報概要・基本データ刊行物教養学部報672号(2026年5月 7日)

教養学部報

第672号 外部公開

〈後期課程案内〉 経済学部 複雑な世界を分析するツールである経済学を学ぼう

経済学研究科長・経済学部長 粕谷 誠

https://www.e.u-tokyo.ac.jp/

 二〇二五年十月に高市早苗氏が日本最初の女性首相となりました。女性の社会進出が十分ではない日本にとって大きな出来事で、勇気をもらった女性も多かったのではないでしょうか。その高市首相の掲げる目玉政策の一つが「責任ある積極財政」であることは皆さんもご存じでしょう。積極財政とは政府の財政支出を増加させることですが、責任あるとはどういったことでしょうか。高市首相が英国最初の女性首相であるマーガレット・サッチャー氏を尊敬していることは有名ですが、イギリスにはこのあとテリーザ・メイ氏とリズ・トラス氏という二人の女性首相が誕生しています。責任ある積極財政は、このうちのリズ・トラス氏と密接な関係があります。

 トラス首相は予算案を発表しましたが、財源の明確な裏付けがないなかで巨額の減税をおこなうこととしました。当時はインフレ対策で金融を引き締めていたところであり、金融の引き締めは経済の引き締め、財政の拡張は経済の拡張に働くことから、政策がちぐはぐであり、国債安(国債価格は金利が上昇すると低下しますので金利上昇)、イギリス通貨のポンド安、株式下落のいわゆるトリプル安の現象となりました。通常、経済の見込みが不安になり、株価が下落すると安全資産である国債が買われて国債価格が上昇するのですが、イギリスの財政の持続可能性が疑われて国債が売られ、通貨も売られたのです。金利上昇は景気に悪影響を及ぼし、株価がさらに低下し、利払い負担で財政が悪化してさらに国債が下落して、通貨下落はインフレをもたらすなど、スパイラルに状況が悪化していく可能性があり、危険な状態です。この結果、トラス首相は早期に退陣することとなりました。高市首相もインフレが進むなか減税と財政支出の増加をうたったため同じ状況になりかけ、責任ある積極財政を掲げることになったのです。政府は万能ではなく、市場の信認を得ながら財政運営をする必要があります。こうした市場の動きをきちんと理解できるのが経済学であり、世の中の進展を考える上で、重要な役割を果たしています。

 また皆さんは二年生になると進学先選択をおこないますが、その第二段階ではマッチング理論にもとづくアルゴリズムで進学先が決まります。このマッチング理論はゲーム理論の一分野で、進学希望の学生と進学を受け入れる学部の間で、どんな学生が欲しいか、どんな学部にいきたいかの希望を出して、それを最適に配分することができます。実はゲーム理論は経済学において近年ものすごい勢いで発達しています。交渉当事者が協力すれば双方にとってよりよい結果が得られるのに、協力できないのはなぜか、どうしたら協力できるようになるかなどについて分析できます。アメリカとソ連という二者から、アメリカ・ロシア・中国という三者になることで、ゲームが複雑になったことは二位・三位連合があること一つをとっても容易に理解できます。気候変動条約で百を超える国が協力することは至難の業でありますが、協力を促すしくみを考えることは重要で、ゲーム理論が重要なツールになります。また経済学は価格を通じて資源を分配することを主として考えてきましたが、マッチング理論により、価格を通じない資源配分も考えることができるようになりました。さらには希少な資源を入札にかけて売るときにどのようにおこなったら最も効率的なのかを考察するオークション理論という分野もあります。皆さんもネットオークションで落札したことがあると思いますが、サイトの背後ではこうした理論が用いられています。経済学研究科には、東京大学マーケットデザインセンター(UTMD)があり、保育所の待機児童削減など実践的な問題を解決しつつあります。

 経済学部ではさらに、世界に広がるサプライチェーンが地政学的要因によるリスクを回避するためにどのようにマネジメントすべきなのか、あるいはデジタル化とAIの進展に企業はどう対応すべきなのかといった企業の視点から考察していく経営学の分野があります。また今日の状況はそれまでの国際協調からブロック対立に移っていった戦間期の時期に似ているようにもみえますし、イギリス・フランス・ドイツ・ロシア・アメリカなどが勢力圏と緩衝地帯を求めて争っていた十九世紀の時代に似ているようにもみえますが、経済現象を歴史的に考察していく経済史の分野もあります。多様な関心に従って勉強できるのも経済学部の魅力です。最後に経済学部では授業を聞くだけではなく、少人数で教員と議論し、学んだ理論を生かし、自分で使ってみて、発信する演習が充実しています。

 学生の皆さん、ぜひ経済学部で一緒に勉強しましょう。

(経済学部長/経営史)

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