HOME総合情報概要・基本データ刊行物教養学部報672号(2026年5月 7日)

教養学部報

第672号 外部公開

〈後期課程案内〉 教育学部 教育学部への招待

教育学研究科長・教育学部長 勝野正章

https://www.p.u-tokyo.ac.jp/

「次世代企業価値デザイン」社会連携講座への参画
 先日、今年度から経済学研究科に設置される次世代企業価値デザイン社会連携講座(座長:柳川範之教授)のキックオフ・シンポジウムに出席しました。教育学研究科も本講座に参画しています。みなさんは、企業の社会貢献やインパクト投資に関する理論的・実証的研究をミッションとする本講座になぜ教育学研究科が参画するのかと訝しく思われるかもしれません。かく言う私もシンポジウムに参加して段々と理解できるようになってきました。

 本講座の基本的な問いに「経済的価値と社会的価値はトレードオフの関係にあるのか」があります。企業が社会課題の解決に取り組むことにより社会的価値の創出が期待されますが、その活動を持続するには経済的価値もまた得られる必要があります。企業による社会課題解決への投資は、その二つの価値が両立しなければ長期的には継続できないのです。教育は、この経済的価値と社会的価値が共存する典型的な社会的活動・領域です。教育には人材育成や人的資本への投資という経済的価値に直結する側面があります。それと同時に、「人格の完成」(教育基本法が掲げる教育の目標)や主体的市民の育成を通じて民主的社会を形成したり、文化を伝承したりという、必ずしも個人に帰属しなかったり、経済的価値のようには成果測定が困難な社会的価値を生みだす機能を併せ持っています。教育が経済的価値の創出を専ら目的とするものになっても、逆に社会的価値のみにかかずらってしまっても、教育とは言えません。社会的価値と経済的価値の両方を創造してこそ教育であり、そのバランスを理論的・実証的に考究することは、教育学の大きな役割の一つなのです。つまり、教育が本講座の研究にとって格好の領域であるとともに、教育学は経済学と協働して、社会的価値と経済的価値は両立可能なのかという中核的な問いを探究するのに貢献できるのです。もう少し実践的な問い、たとえば社会的価値をどう測定するのかについても、教育学は市民育成や民主主義社会形成という教育の機能に対する評価に関する学術的知見をもって寄与することが期待されています。

教育学部が目指しているもの
 教育学の連携・協働は、経済学だけでなく、人文学、社会科学、自然科学のあらゆる学問分野との間で行われています。たとえば、教育学部の身体教育学コースの教員は医学部や薬学部の研究者と共同研究に取り組んでいます。今日私たちが直面している平和、人権、健康、ウェルビーイング、自然環境、AIをはじめとする新たなテクノロジーへの対応などの課題には、ただ一つの学問分野で解決できるものなどありません。教育学はもともと、ヒトの成長と学習に関する探究を中心的な関心としながら、ヒトが働きかけ、働きかけられる自然と社会へと視野を広げる総合的な学問として発展してきたので、その学際性を更に強め、様々な学問分野(ディシプリン)との連携・協働を拡張するのは必然的なことであるとも言えます。学際的協働だけでなく、政府(国・自治体)や企業、NPO、市民社会との協働もますます盛んになっています。

 このような状況のもとで、教育学部は「グローカルな共生社会の実現に向けた、格差と分断に挑む『架橋する教育学』研究教育拠点」の構築を目指しています。教育面では、現代社会に求められる新たな教養であるところの「インクルーシブな知性」を備えた市民とプロフェッショナルの育成を目指し、従来からの教育学教育の高度化とともに、バリアフリー教育や心理職養成プログラムの拡充を進めています。後者は、DEI(Diversity, Equity and Inclusion)の推進を掲げる東京大学の全学教育の充実にも大きく貢献しています。また、多様性と包摂性が尊重される共生社会の実現を目指す教育学部は、すべての学生と教職員が安心して学び、研究し、働けるコミュニティであることを目指しています。その一歩として、数年前に教育学部セイファースペース(KYOSS)を開設しました。KYOSSでは、多様なジェンダー/セクシュアリティ、障がい、生きづらさに関する当事者性を持つ学生、教職員による学びあい、協働を通じて、新たな教養教育の形と内実が日々創造されています。

教育学部への招待
 教育学部は、皆さんの多様な知的興味関心に応えることのできる総合的・学際的な学部です。学生の男女比はほぼ一対一であり、東京大学の中では女性教員比率の高さが際立っています。また、比較的規模の小さい学部であるため、学生どうし、学生と教職員の距離が近いアットホームな文化も教育学部の特徴です。

 私たちは、多様性と包摂性が尊重される共生社会の実現に向けて、教育学の新しい地平をともに切り拓いてゆく仲間として、瑞々しい感性と知性を持つ皆さんの進学を心から楽しみにしています。

(教育学部長/総合教育科学)

第672号一覧へ戻る  教養学部報TOPへ戻る

無断での転載、転用、複写を禁じます。

総合情報