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教養学部報

第676号 外部公開

人工細胞の「強さ」を設計する─DNAナノテクと物理学で挑む、生命らしい材料づくり─

柳澤実穂

 生命の基本単位である細胞は、柔らかく形を変えることができる一方で、外から力を受けても簡単には壊れません。この「しなやかさ」と「強さ」を両立する仕組みは、生命を支える重要な物理的性質です。では、このような細胞の性質を、人工的につくることはできるのでしょうか。近年、細胞を単なる「生命の単位」としてではなく、「高度に設計された物質」として理解し、人工的に再構築しようとする研究が進んでいます。その中心となるのが人工細胞研究です。人工細胞とは、脂質からなる膜で囲まれた小さなカプセルです。新型コロナウイルスのmRNAワクチンでは、ワクチン成分であるmRNAを細胞内へ届けるために脂質ナノ粒子が利用されています。こうした脂質カプセルは、薬剤を狙った場所へ運ぶ「医薬輸送カプセル」としても注目されています。しかし、人工細胞を本当の細胞のように機能させるためには、単に膜で物質を包むだけでは不十分です。外部からの力に耐え、必要に応じて形を変えるためには、「膜の硬さ」を自在に制御する必要があります。

 私たちは二〇一七年、DNAを材料とした人工的な細胞骨格を人工細胞内につくり、膜を力学的に安定化できることを報告しました。DNAは生命の設計図として知られていますが、分子を設計することで、ナノサイズの構造体やネットワークを形成できる「材料」としても利用できます。今回の研究では、このDNA構造がどのように人工細胞の強度を高めるのかを、物理的視点から明らかにしました。人工細胞を細いガラス管で吸引して変形させると、細胞膜は単純なバネのような応答ではなく、変形が進むにつれて性質が変化する非線形な挙動を示します(図・左)。そこで本研究では、膜の伸びと曲がりを考慮した新しい解析モデルを構築し、複雑な変形応答を定量的に記述しました。その結果、人工細胞の「強さ」を決める材料の役割分担が明らかになりました。脂質は主に分子形状に依存した膜の伸びにくさを制御します。一方、膜を支えるDNAが形成する三次元ネットワークは、膜の曲がりにくさを大きく高めることが分かりました(図・右)。つまり、脂質は膜の〝伸びる性質〟を、DNAナノ構造は膜の〝曲がる性質〟を独立に制御する設計要素として利用できることが分かりました。

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 この成果は、生命を模倣するだけでなく、生命が持つ優れた材料設計原理を理解し、新しい材料へ応用するための一歩です。将来的には、機能や用途に応じて硬さや柔らかさを設計した医薬輸送カプセルや、環境に応答する人工材料の開発につながることが期待されます。生命は、分子を組み合わせることで驚くほど精巧な「物質設計」を実現しています。本研究は、生命が進化の中で獲得した物質設計の原理を物理学で読み解き、それを人工材料として自在に設計する未来に向けた挑戦です。

(相関基礎科学/先進科学)

〇関連情報
【研究成果】人工細胞の"硬さ"を自在に設計 ──脂質が伸びにくさを、DNAナノ構造が曲がりにくさを制御──
https://www.c.u-tokyo.ac.jp/info/news/topics/20260619140000.html

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