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最終更新日:2026.03.19

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トピックス 2026.03.19

【研究成果】セルロース糖化を容易にする前処理法を開発 ──低温アルカリ処理で水素結合構造を乱す

2026年3月16日
東京大学大学院総合文化研究科

発表のポイント

  • 低温アルカリ処理によりセルロースの水素結合構造が乱れ、反応性が向上する。
  • 天然のセルロースは結晶性で非常に分解が難しい。
  • アルカリ処理は古くから利用されてきたが、低温化が反応性向上の鍵である。
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低温アルカリ処理により規則性はもつものの水素結合が乱れた構造に変化
(赤点線は水素結合を示す。背景は低温処理をイメージした図案である。)

概要

 難分解性であるセルロースの糖化はバイオマス利用の重大課題の一つですが、比較的簡便な処理によりセルロースの反応性を高められることを東京大学大学院総合文化研究科の研究グループが見出しました。

 天然のセルロースは分子内・分子間に多数の水素結合をもつ剛直な結晶構造を形成しており、難分解性であることが知られています。本研究グループではこの結晶セルロースを直接分解できる触媒の開発にも着手していますが、同時にセルロースの反応性を簡便な前処理で高められないかについて検討してきました。今回、天然に存在する型の結晶セルロース(セルロースI型)を−28 C以下の低温の水酸化ナトリウム水溶液に漬けるだけで、水素結合が乱れた反応性が高い構造に変化させられることを明らかにしました。


発表内容

 持続可能な社会発展を成し遂げるためには、人類が使用する物質をきちんと循環させる必要があることが認識されつつあります。バイオマスは再生可能な炭素資源であり、使用後に二酸化炭素として排出しても光合成により再びバイオマスに戻せます。そのため、バイオマスを上手く活用することができれば、炭素循環が可能となります。

 木の主成分であるセルロースは最も発生量が多いバイオマスです。セルロースはグルコースという糖の分子が多数つながった物質なので、その連結部分を切断すれば糖が得られます。これを原料にして化学的な方法や発酵法を用いると、様々な有用化合物を合成することができます。たとえば、生分解性プラスチックを作ることもできます。

 天然のセルロースは剛直な結晶構造をもち、非常に難分解性であることが知られています。このままでは分解が難しいため、この結晶セルロースに対して長時間の粉砕など、強い前処理を施して結晶構造を壊し、非晶質のセルロースへと変えます。活性炭などの優れた触媒を用いればこの非晶質セルロースを分解してグルコースを作ることができます。しかし、この前処理のエネルギー消費量が大きく、セルロースの化学資源としての利用を阻んでいます。

 今回、東京大学大学院総合文化研究科広域科学専攻/附属先進科学研究機構の小林広和准教授、西村直美学術専門職員らのグループは、結晶セルロースを−28 C以下の低温の水酸化ナトリウム水溶液に漬けるだけで、セルロースの反応性が高まることを明らかにしました。これにより、糖化効率が2倍以上に向上しました(図1)。

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図1:同一条件で糖化反応を行った結果.
(触媒には2025年に報告したナノサイズの炭素触媒を使用した)

 セルロースを水酸化ナトリウム水溶液で処理する「マーセル化」という方法は古くから知られており、セルロース繊維の光沢を増すなどの目的のために工業的にも実施されています。この処理によって、セルロースの結晶構造はセルロースI型と呼ばれるものから、セルロースII型と呼ばれる別の結晶系に変化します。低温にすると、水酸化ナトリウムの濃度を下げてもこの変化が引き起こせることは従来から知られていました。しかし、今回の研究では低温化により反応性も高まることが明らかになったため、別の変化を伴っていることが示唆されます。

 そこで、この原因について調べたところ、低温アルカリ処理によってセルロースは確かにセルロースII型に類似した構造に変化するものの、その結晶構造で存在すべき水素結合の構造が乱れた状態になっていることが分かりました。これは水酸化ナトリウム水溶液処理によって膨潤した状態のセルロースを調べた結果ではなく、洗浄・乾燥後の分析結果であり、乱れた水素結合は乾燥状態においても維持されます。

 今回の発見が、セルロース糖化の効率化や、セルロース材料の展開に役立つことを期待しています。

〇関連情報:
「プレスリリース セルロースを前処理なしで糖化 ナノサイズの炭素触媒が結晶セルロースを直接分解」(2025/4/22)
https://www.c.u-tokyo.ac.jp/info/news/topics/20250422110000.html


発表者・研究者等情報

東京大学

大学院総合文化研究科広域科学専攻/附属先進科学研究機構
小林 広和 准教授

大学院総合文化研究科広域科学専攻
西村 直美 学術専門職員
増井 洋一 助教
岩井 智弘 准教授

工学部化学生命工学科
嶌根 亮 学部生

生産技術研究所
安村 駿作 助教
小倉 賢 教授


論文情報

雑誌名:RSC Sustainability
題名:Boosting reactivity of crystalline cellulose by a cold base treatment for catalytic hydrolysis with a carbon-based catalyst
著者名:Naomi Nishimura, Yoichi Masui, Ryo Shimane, Shunsaku Yasumura, Tomohiro Iwai, Masaru Ogura, Hirokazu Kobayashi*
DOI:10.1039/D5SU00951K
URL:https://pubs.rsc.org/en/Content/ArticleLanding/2026/SU/D5SU00951K


研究助成

本研究は、JSTさきがけ「木質バイオマス全成分利用を可能とする安定結合切断法の開発(課題番号:JPMJPR22N5)」の支援により実施されました。


関連リンク

Facile pretreatment that activates cellulose for saccharification(英語版プレスリリース)
https://www.eurekalert.org/news-releases/1120216


―東京大学大学院総合文化研究科・教養学部 広報室―

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