教養学部報
第657号
まだまだ続く! 変な惑星探し2
成田憲保
二〇二二年に教養学部報に寄稿してから二年以上の時間が空いたため、改めて前回とほぼ同じ書き出しから始めたい。
前期課程の皆さんは「系外惑星」という言葉をご存知だろうか? これは太陽以外の恒星を公転する惑星のことで、二〇二四年八月までに五七〇〇個以上もの系外惑星が発見されている。今この分野では、新しい系外惑星が次々と発見され、新しい事実が明らかとなり、最新の知見が日々更新されている。系外惑星は、天文学の中で最もホットなテーマの一つとなっている。
成田研究室では、この系外惑星の研究に取り組んでいる。特に現在は、NASAが二〇一八年に打ち上げたトランジット惑星探索衛星TESSという衛星計画に参加し、研究室で独自に開発したMuSCATシリーズという四台の観測装置を使って日々新しいトランジット惑星(主星の前を通過する軌道をもつ系外惑星)を探し、発見された惑星がどんな惑星なのかを調べている。本稿では、そうした研究を通して二〇二三年度に成田研究室からプレスリリースした二つの成果について紹介したい。
なお、本稿は教養学部報六二四号(二〇二一年一月発行)に掲載された「まだ見ぬ変な惑星を求めて」と六三五号(二〇二二年四月発行)に掲載された「まだまだ続く! 変な惑星探し」の続きとなっている。これまでの記事はウェブ上で公開されているので、よろしければご参照いただきたい。
今回紹介する変な惑星は、火山活動をしている可能性がある地球サイズの惑星と、隣り合う全ての惑星の公転周期が簡単な整数比で表せるという不思議な関係をもつ六つ子の惑星である。
火山活動をしている可能性がある惑星が発見されたのは、太陽系から約九〇光年離れたところにあるLP 791-18という赤色矮星(太陽より低温度の恒星)である。この赤色矮星の周りでは、公転周期が約一日と約五日のところに、それぞれ半径が地球の約一・二倍と約二・五倍の惑星bとcが発見されていた。今回新たに発見された惑星dは、公転周期が約二・七五日で、半径は地球とほぼ同じだった。このように近接した軌道を複数のトランジット惑星が公転している惑星系では、惑星同士の引力が影響を及ぼすため、トランジットが起きる時刻が一定の周期からずれて観測される。このトランジット時刻のずれを詳しく調べることによって、引力を及ぼしている惑星の質量を推定することが可能となる。
今回の研究では、成田研究室で開発したMuSCATシリーズなどで繰り返しこの惑星系のトランジットを観測してずれを調べた結果、惑星dの質量は地球と同程度、惑星cの質量は地球の九倍程度であることが明らかとなった。地球とほぼ同じ質量・半径をもつ惑星dは岩石惑星と考えられ、それを発見しただけでも一応面白いのだが、そのような岩石惑星は他にも見つかっていて、それだけならここで紹介するほど「変な惑星」ではない。この惑星がこれまでにないほど変なのは、火山活動をしている可能性が非常に高いということである。では、どうして火山活動をしている可能性が高いと言えるのだろうか?
火山活動をしている惑星としては、わたしたちが暮らしている地球が知られている。しかし、太陽系全体で見た時に最も活発な火山活動をしているのは、木星の第一衛星イオである。イオは木星の衛星の中でもガリレオ・ガリレイによって発見された四つのガリレオ衛星の一つで、ガリレオ衛星の中で最も内側を公転している。そしてイオは、他のガリレオ衛星であるエウロパ・ガニメデが存在することによって、強制的に真円から少しだけ歪んだ軌道で公転している。このように歪んだ軌道で木星のすぐそばを公転しているため、イオの内部には潮汐力という力で摩擦熱が生じ、加熱される。これを潮汐加熱と呼ぶ。
今回の研究では、すぐそばにある惑星cの存在によって、惑星dも真円からほんの少しだけ歪んだ軌道をもつことが明らかとなった。その結果、この惑星では潮汐加熱が生じて少なくとも地球より内部が加熱されており、マントルの一部が融解していると考えられるため、活発な火山活動をしている可能性が高いという結論が得られた。このように火山活動をしている可能性が高いと言える岩石惑星は、太陽系外で初めて発見されたものである。
今後は二〇二一年に打ち上げられたNASAの宇宙望遠鏡であるジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡を使って、この惑星の大気組成を観測することに期待が高まっている。これは、火山活動をしている可能性が高い惑星の大気を調べることで、岩石惑星の内部から火山ガスとしてどんな物質が大気中に放出されているのかを太陽系外で初めて調べることができる例となるためである。
もう一つ紹介するのは、太陽系から約一〇〇光年離れたところにある年齢約八〇億歳の恒星HD 110067で発見された六つ子の惑星である。この六つの惑星のどこが変かと言うと、それは隣り合う惑星同士の公転周期比が全て簡単な整数比となっていた(これを尽数関係と呼ぶ)ことである。尽数関係自体は太陽系でも見られる(前述のイオ・エウロパ・ガニメデも尽数関係にある)ものの、六つもの惑星が連なって尽数関係を持つ惑星系は滅多にない。
惑星は生まれたての恒星を取り囲む原始惑星系円盤の中で形成されると考えられていて、原始惑星系円盤がなくなった惑星形成直後は、尽数関係にある惑星ペアも多いと考えられている。しかし、その後の惑星同士の重力的相互作用などで尽数関係は容易に壊れてしまうため、時間と共に尽数関係は失われていく。そのため、全てのペアが尽数関係にある六つ子の惑星が年老いた恒星の周りで発見されるというのは極めて稀なことである。
この惑星系は、惑星の軌道が形成初期のまま残っていると考えられることから、極めて保存状態の良い化石を発見したようなものである。これからこの惑星系では、惑星がどのように原始惑星系円盤の中で形成・移動してきたかの理論的研究や、それぞれの惑星がどのような大気を持つか比較するというような観測的研究が行われていくと期待される。
ただ、この六つの惑星を発見するのは決して簡単なことではなかった。研究者は尽数関係を手がかりに謎解きをしてこの六つの惑星を発見したのだが、本稿では説明するスペースがないためどのようにして発見されたのかは二〇二三年十一月のプレスリリースを参照していただきたい。
今回も新たに発見された滅多にない特徴を持つ「変な惑星」を紹介した。既に五七〇〇個以上もの系外惑星が発見されても、未だに「普通」にはなっていない惑星の発見が相次いでいる。標準からかけ離れた変な惑星の発見は新たな理論的・観測的研究を推し進める原動力となっており、これからも新たな発見が続くと期待している。また新たな発見の報告をご期待いただきたい。
(広域システム科学/先進科学)
〇関連情報
【研究成果】共鳴し合う6つ子の惑星を発見――全ての隣り合う惑星の公転周期が尽数関係を持つ惑星系HD 110067――
https://www.c.u-tokyo.ac.jp/info/news/topics/20231130010000.html
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