HOME総合情報概要・基本データ刊行物教養学部報672号(2026年5月 7日)

教養学部報

第672号 外部公開

常識外れの惑星「ホットジュピター」はどのように生まれたのか

福井暁彦

 太陽系では、木星や土星のような巨大ガス惑星は、太陽から遠く離れた軌道を十年以上かけてゆっくりと公転しています。太陽系以外の惑星系が知られていなかった約三十年前まで、巨大ガス惑星はこうした大きな軌道をもつということが、いわば我々の「常識」でした。しかし、一九九五年に初めて太陽以外の恒星を周る惑星が発見され、その常識は覆されます。この惑星は、恒星のすぐ側をわずか数日で公転する巨大ガス惑星でした。

 このような灼熱環境をもつ巨大ガス惑星は、通称「ホットジュピター」と呼ばれています。ホットジュピターはこれまでに五百個以上発見され、恒星全体の1%程度に存在すると考えられています。しかし、このような特異な惑星がどのように形成されたかについては、未だ完全には分かっていません。

 現在広く支持されているシナリオは、ホットジュピターはもともと恒星から離れた場所で形成され、その後、軌道が内側へ移動したというものです。これまで主に二つの移動の仕組みが提案されてきました(図)。一つは、惑星同士の重力相互作用などによって軌道が大きく歪み、細長い楕円の軌道になったあと、恒星との相互作用によって軌道が縮小・円形化する「高離心率移動」です。もう一つは、若い恒星の周囲に広がるガスや塵の円盤(原始惑星系円盤)との相互作用によって、惑星がゆっくりと内側へ移動する「円盤移動」と呼ばれる仕組みです。

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図 2つのホットジュピターの軌道進化の仕組み。「高離心率移動」では、①惑星が外側の軌道で形成されたあと、②伴星や別の惑星からの重力作用により軌道が大きく乱され、その後③恒星から受ける強い潮汐作用によって軌道が縮小・円形化する。「円盤移動」では、惑星が外側の軌道で形成されたあと、原始惑星系円盤中のガスとの相互作用によって、円軌道を保ったまま緩やかに恒星に近づいていく。

 しかし、観測された惑星がどちらの過程を経て現在の位置に至ったのかを見分けることは容易ではありません。従来は、「高離心率移動」を経たことを示す手がかりとして、恒星の自転軸と惑星の公転軸の傾き角の情報が使われてきました。しかし、軌道の傾きは時間の経過とともに変化する可能性があり、必ずしも形成過程を明確に示すとは限らないという課題がありました。

 そこで、広域科学専攻広域システム科学系博士後期課程の河合優悟さんは、惑星の軌道がどのくらいの時間で円形に近づくかという「円軌道化の時間」に着目しました。惑星が激しい重力相互作用を受けて大きく歪んだ軌道に入った場合、恒星から受ける強い潮汐力によって徐々に軌道は円形に近づいていきます。ただし、この過程には長い時間がかかります。河合さんは、もし惑星の軌道が円形になるまでに必要な時間がその惑星系の年齢よりも長い場合、過去に大きく乱された軌道を経験した可能性は低く、比較的穏やかな「円盤移動」によって現在の位置へ移動した可能性が高いと言えることを見出しました。

 この考え方をもとに、河合さんは筆者らと議論を重ねながら、質量や半径などの情報が知られている五百個以上のホットジュピターのデータを分析しました。その結果、数十個の惑星が「円盤移動」によって内側へ移動した可能性が高いことが分かりました。これらの惑星には、近くに別の惑星を伴う例が比較的多いなど、穏やかな移動過程と整合的な特徴も見られました。

 これまでは、ホットジュピターの大半は「高離心率移動」を経て形成されたと考えられていましたが、本研究により、「円盤移動」で形成されたホットジュピターも一定数存在することが新たな手法によって示されました。太陽系とは異なる多様な惑星系の姿を明らかにすることは、宇宙における惑星形成の普遍的な仕組みを解き明かす上でも重要です。本研究は、その理解を一歩前進させる重要な成果と言えます。

(広域システム科学/先進科学)

〇関連情報
【研究成果】ホットジュピターの静かな誕生に迫る ──「静か」に生まれるホットジュピターと 「激しく」生まれるホットジュピターの違い──
https://www.c.u-tokyo.ac.jp/info/news/topics/20251107180000.html

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